片翼を君にあげる③
「ジャナフ君のお母様は、本当にすごかったのね。強くて、立派で、尊敬します。
私は、全然駄目!ちっとも……強くなんて、なれませんでしたわ」
どれくらい、泣いただろう?
ようやく涙が止まって、落ち着いて……。私はジャナフ君にそう言って、苦笑いした。
彼のお母様の事を、改めて立派だと思った。
狭い塔に閉じ込められ、側室と言う、決して自分だけが愛される事のない立場でありながら、常に笑顔を絶やす事なくジャナフ君を育ててくれたと聞いていたから……。
そんな立派なお母様を見て来たジャナフ君にとって、今の私はどんなに弱い女に映るのだろうーー?
そう思うと、何だか少し恥ずかしくなった。
それにどさくさに紛れて、ずっと手を繋いだままだった事に気付く。
そろそろ、放さなきゃ……。
彼の優しさに、いつまでも甘えていてはいけない。
ゆっくりと、繋がれていた手を放そうと引く。
ーーが。
その手は優しい力でキュッと握り止められて……ジャナフ君が言った。
「ノゾミさんはノゾミさんです。ボクの母じゃない。
……と、いうか。ボクの母だと、困っちゃうな。ノゾミさんには、一人の女性として、ボクを見ててほしいから……」
ーー……えっ?
その言葉に、私は思わずジャナフ君を見た。
すると彼は私と繋いでいる手と逆の手で自分のポケットを漁り、何かを取り出すとそっと手の平を開いてそれを見せてくれる。
掌にあったのは、夢の配達人の中では1番下の位の証である青銅バッジ。
「このバッジを、ボクはまず銀バッジに変えてみせます」
その優しい声は、心を癒す魔法。
その言葉は、私に希望をくれた。
「どこまで行けるかは分からない。おっちゃ……瞬空さんみたいに、白金バッジにまで上り詰める事は出来ないかも知れません」
その言葉は私に、"ここに残った事が間違いではない"と、救ってくれた。