片翼を君にあげる③

「ようやく……。
ようやく叶うんだ。僕の夢が、やっと……」

そう、幸せそうに微笑む愛おしい人の横顔を、私はただ黙って見つめていた。

……
…………。

数時間前ーー。

「ヒナちゃん、久し振り」

母アカリに呼ばれて玄関に足を進めると、そこに居たのはミライさん。最後にお正月に会ってから、約三ヶ月振りに私は夫に会った。
まだ式は挙げられていないし、仕事で家を空ける事の多いミライさんが心配するから私は未だに実家暮らしだけれど、婚姻届が受理されている私達は世間に認められた夫婦だ。
そして私のお腹には、もうすぐ8ヶ月になる赤ちゃんも居る。

そんな、周りから見たら"幸せな新婚夫婦"の筈だが、私はまさかのミライさんの訪問に驚いて目を丸くしてしまった。
それくらい、私にとっては信じられなくて、夢のような事なのだ。彼が私に、会いに来てくれる事は……。

「ヒナちゃん?
大丈夫?もしかして、体調悪い?」

「!……あ、いえ。大丈夫ですっ」

ハッとして答えながら、私は手ぐしでささっと髪を整える。もう少し、ちゃんと身なりを整えておけば良かった、と後悔した。
実家で油断して寛いでいた私は、化粧もほとんどしていなくて、服装もゆったりとした普段着。
いくら夫婦とはいえ、妊婦とはいえ、まだまだ新婚の夫に……好きな人に見せたい姿ではなかった。
そんな出だしで、少し気不味い空気が流れかけたが、母が助け舟を出してくれる。

「ミライ君、今日はゆっくり出来るの?良かったら(ここ)で夕飯を食べて行って!」

「いいんですか?」

「もちろん!私、頑張っちゃうわ!
ね、ヒナタ?夕飯が出来る(それ)まで、ミライ君と散歩してきなさいよ。少しくらい運動した方が身体にいいわよ?」

「ねっ?」って、優しい母の微笑みに救われる。私は微笑み返して頷いた。

「うん、そうしようかな。
ミライさん、お散歩に付き合ってもらえますか?」

「勿論。一緒に行くよ」

「じゃあ、ちょっと待ってて下さい。準備してきます!」

ミライさんの優しい笑顔と返事に嬉しくなる。
私は、胸を弾ませながら出掛ける準備をした。

……
…………。
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