片翼を君にあげる③
***

久々にお洒落(しゃれ)をした。
妊婦だから服装には限りがある分、髪を結って、少し良い化粧品でお化粧をした。

まあ、行き先は近所の広場や公園なんだけどね。
でも、普段はただの散歩でも今日は違う。隣には好きな人(ミライさん)がいるのだから……。

こんな風にゆっくりと二人で過ごせるのは、いつ振りだろうかーー?

お正月はミライさんの家族であるシュウさんとホノカさん、妹のノゾミちゃんと一緒の食事会だったから二人きりでゆっくりする事は出来なかった。
その後はずっとミライさんは夢の配達人の仕事が忙しくて、電話もしなければ、メールも私がお腹の赤ちゃんの経過を報告するほぼ一方通行のやり取りばかりだったし……。

その生活に全く思う事がない、と言ったら嘘になるけれど……。それでもいい、と望んだのは私だ。
去年の夏、ミライさんのお願いと引き換えに『ヒナちゃんの言う事、何でも聞いてあげる』と言う条件。その条件に、私は今の人生(みち)を選んだの。

ミライさんの妻になり、彼の子供を産む人生(みち)をーー……。

「だいぶ、暖かくなってきましたね」

「そうだね」

「相変わらず忙しそうですけど、体調は大丈夫ですか?」

「問題ないよ。今は僕より、ヒナちゃんの方が体調に気を付けないと」

「ふふっ、そうですね」

決して、仲が悪い訳ではない。
けれど私達には、今でも微妙な距離がある。
一緒に隣同士で歩きながらも、繋げそうで、繋げない手。
相変わらずの「ヒナちゃん」呼び。
今も……。いや、この先もきっと、一生私の片想いだ。

それは、この人を好きでいると決めた時から覚悟の上。
私の望みはただ一つ。
私だけが、彼が嘘を付かずに微笑っていられる時間を作ってあげたい。

「ツバサから、聞きました。二つ目の白金バッジを手にした、って。
次はいよいよ、ミライさんとの下剋上……ですね?」

私がそう言うと、ミライさんの表情がフワッと春風に頬を撫でられたかのように変わった。
優しい瞳、柔らかい表情、彼の全てに暖かい雰囲気が溢れていた。
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