片翼を君にあげる③

彼が見つめる先はすぐ傍の私ではなく、心の中に居る大切な人。

「ようやく……。
ようやく叶うんだ。僕の夢が、やっと……」

そう、幸せそうに微笑む愛おしい人の横顔を、私はただ黙って見つめていた。

もしもツバサとの下剋上の日が、お腹の子(この子)の出産日と重なっても……。きっと彼は、ツバサを選ぶ。

そう分かりながらも、この人の妻で居る私。
誰になんと思われようといい。
誰になんと言われようといい。
私の夢は、ただ一つ。

ミライさんの夢を、叶えてあげる事ーー。

それ以上は望まない。
夢を語る横顔を見つめながら微笑むと、ふいに彼が私の方を見た。そして、真剣な表情になって、言う。

「ツバサとの下剋上が終わったら、僕は夢の配達人を辞める」

突然の告白に驚いた。
けど、それよりもっと驚いたのは、更に続く言葉。

「そして、その後の残りの人生はヒナちゃん、君に……。いや、君と産まれてくる子供の為に捧げる」

彼はしっかりと、私を見つめて言ってくれた。

「だから、もう少しだけ……待ってて?
あと少し、僕の我が儘に付き合ってほしい」

私を、見てくれたーー。

嘘偽りを感じさせない、真っ直ぐな瞳。
彼が、私を見て、伝えてくれた。

これ以上は望まないーー。

そう思っていたのに、私の瞳からは自然と涙が溢れ出していた。
慌てて涙を拭いた私が頷きながら微笑むと、ミライさんも静かに微笑み返してくれた。

季節だけではなく、私達の心にも冬が終わって暖かい春が来るのを感じていた。

夏が来る頃にはきっと、みんなが幸せになれるーー。

私は、そう信じたかった。

……
…………。

ーー……けど。
私達に絡み付く運命は、想像以上に厄介で……。

「ヒナタ!ミライ君!大変なの……ッ!!」

帰宅した私達に叫ぶ母の声に、リビングのテレビを観た。
その画面に映されたニュース速報が、また私達の運命を大きく動かしていくのだった。

……
…………。
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