片翼を君にあげる③
作品一つ一つに感じる愛情、情熱、想い。
それを感じた俺の勘のようなものだった。
「あとは、この店の名前『emina』。
この名前には貴方の奥さんの名前の他に、もう1人の名前が組み込まれている。
『emina』を並べ替えると、m、i、n、e、a……ミネア。レノアの母親、ミネア様の名前にもなる。そして……」
「ーー……そうだよ。この店にはイヤリングばかりでピアスしかないのは、私が愛した女性が二人とも「耳に穴を空けるのが苦手」と言ったからだ」
俺が言おうとした事を、店主さんは自ら口を開いて言った。
そして、過去を思い出すように話し始めた。
「まさかあのミネア様が、ピアスではなくてイヤリングだなんて驚きだよね?
彼女と出逢ったのは、盗作に合った上にもう二度と作品を造れないように右腕を切られて……。おまけに、妻に先立たれて全てに絶望していた最中だった」
それは、聞いているだけでも辛く悲しい過去だった。
売れない彫刻家として、貧乏でも奥さんと幸せに暮らしていた店主さん。なかなか世間に認めてもらえないけれど、「貴方には才能がある!いつか必ず輝ける日が来る!」と、奥さんはいつも支えてくれていたそうだ。
そして、そんな奥さんの為にも店主さんは自分に出来る精一杯を注いで、あの作品を……。育みの女神レノアーノ像を造り上げた。
その素晴らしさに目を付けたのが、ローレンツだった。
ローレンツは店主さんに「私にこの作品を譲ってくれたら大金をやる」と言った。
運が悪い事に、この時店主さんが作品を出展していたコンクールの代表がローレンツで、断れば丹精込めて造り上げたレノアーノ像は世に出ないどころか壊されてしまうと圧力をかけられた。
更に、その頃奥さんが病を患っていて、すぐにでも大金が欲しかった店主さんは……ローレンツに作品を渡してしまったのだ。
「バカだよなぁ……」
と、店主さんは呟いた。