片翼を君にあげる③

その後。レノアーノ像は世界中で高く評価をされて、認められた。
そのあまりに高すぎる評価に、ローレンツは作品が盗作である事がバレる事を恐れたのであろう。
店主さんがもう二度と作品を造れないように、利き手であった右手を切り落とした。

「妻は、何も言わなかった。変わらず、前向きだった。
右腕を失った私に、趣味だったアクセサリー作りを教えてくれた。彼女が居たから、私は頑張れた」

奥さんに支えられて、店主さんは今まで彫刻に注いできた技術をアクセサリー作りに活かせないかと頑張った。
左手だけでの作業は時間もかかるし、初めは上手くいかない事が多かったが、着実に進歩していった。

けれど、その時は来てしまう。

『いつか、小さくてもいいからアクセサリーショップを開きましょう!』

そう、一緒に夢を見ていた奥さんが亡くなった。

「彼女を失って、私も、死のうと思った。
けど、彼女と一緒に作ったアクセサリーを見ていたら……この子達を売るまでは、駄目だと思ったんだ」

一緒に作ったアクセサリーを無駄にしたら、天国の奥さんに店主さんは会えないと思ったらしい。
だから、町の片隅で露店のようにアクセサリーを並べて売る事にした。
その時に出逢ったのが……。

「そんな時だった。ミネアに出逢ったのは……」

端麗な顔立ちや気品溢れる身なり。彼女を纏う全ての雰囲気から、とても露店でアクセサリーを買うような女性には見えなかったが、そんな彼女が言った。

『このお店、耳飾りは全部イヤリングなんですね?
私、耳に穴あけてないんです。なんか、怖くて......。だから、ピアスよりイヤリング派です』

「……妻とよく似た台詞と優しい笑顔に、涙が止まらなかった。そんな私を見て、彼女も……ミネアも何故か、一緒に泣いたんだ」

言葉なんて、必要なかったーー。

そう、店主さんは言った。
華やかな世界に生きる彼女でも、他人には話せない、人前では見せられない姿があるのだと思ったそうだ。
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