片翼を君にあげる③
全ては計画通りに……。
いや、僕の計画以上に順調だったに違いなかった。
「……そう言う事で。近々もう一度アカリさんの所に伺って、正式にヒナタさんとの結婚と今後について決めてきます」
ヒナちゃんを実家に送り届け、アカリさんに挨拶を済ませた後。僕は夢の配達人の隠れ家に戻り、最高責任者の部屋で父シュウと母ホノカに子供が出来た事と、結婚の報告をした。
当然と言えば当然だが、今まで全然そんな関係には見えなかった僕達の急展開に母さんは最初驚いていて……。でも「相手がヒナちゃんなら安心だわ!」と、喜んでくれた。
それに、孫が出来た事も、とても嬉しそうだった。
……そうだよね。
それが、普通の母親の喜び、だよね?
僕は、母さんの反応を見て「良かった」って思った。
一方の父さんは、暫く何も言わなかった。
盲目の父さんは薄い黒のサングラスを掛けているから、ハッキリとした表情は分からないが……。そんな父さんが、僕には何か、深く思い出しているように見えて仕方なかった。
「……では、詳しい事はまた後日に。
次の任務の準備がありますので、失礼致します」
目を逸らして、背を向けて、僕はこの場を後にしようとした。
けど、その時にようやく、父さんが口を開く。
「幸せにする……。幸せになる自信が、あるんですね?ミライ」
ーー……。
その言葉に、ドアノブを回そうと思って触れていた手が一瞬止まった。
でも僕は、すぐにドアノブを強く握り締めて、顔だけ振り返って微笑った。
「勿論です」
そして、最高責任者の部屋を後にした。
思わず溜め息を漏らしそうになるが、最高責任者の部屋から扉一枚を越えたこの場所は秘書部屋。
この部屋に居るのは最高責任者補佐。そう、妹のノゾミだ。
ノゾミは賢い。きっと会話は聞こえていただろうに、気付かないフリをして仕事をしながら、黙って部屋を出て行こうとした僕にたった一言、「お疲れ様です」と言った。