片翼を君にあげる③

僕は彼女にとって決して良い兄ではなかった。
けど、(ノゾミ)はそんな僕の為に自分を犠牲にして生きようとしてくれていた。
父さんに何かあったら自らが次の最高責任者(マスター)になるべく勉強と強さを極め、愛おしい男性(ひと)への想いを断ち……。一緒に夢の配達人を支えてくれる人と、歩む道を選ぼうとしていた。

僕の代わりに、全てを背負おうと、してくれていたーー……。

「父さんの跡も、夢の配達人の未来(さき)も……。もう、何も心配するな」

そんな(ノゾミ)を、もう、解放してやろうと思った。
それだけが、僕が兄として彼女にしてあげられる、唯一の事だった。

「今まで、悪かった。……ありがとう」

「っ、……兄さんっ」

僕が言葉を掛けると、呼び止めるように「兄さん」と呼ばれたけど……。僕は、足を止めずに廊下に出て、秘書部屋の扉をバタンッと遮るように閉めた。

僕と一緒で辛い恋をしている妹。
でも、彼女の場合は結ばれる事が不可能じゃなければ……素直に想いを伝える事だって出来る。
辛い事もあるだろうが、それでも自らが踏み出せば……手が届く恋なんだ。

だから、その夢はお前に託すよーー……。

「……頑張れ、ノゾミ。
替わりに僕は、もう一つの夢を叶えるよ」

そう呟いて、僕はポケットから自分の白金バッジを取り出して、見つめた。
かつては欲しくて欲しくて、がむしゃらに追いかけた。
でも、途中見失って、何の輝きも見えなくなった。

けど。
やっぱり白金バッジは、僕の一番星だった。

「……あと少し。
あと少しだけでいいから、僕に付き合って?」

僕の夢。それは、

ツバサにこのバッジを奪ってもらう事ーー。

その為なら、僕は何でもすると決めたんだ。
自分の想いを押し殺しても……。その結果が、例えツバサに嫌われる事になっても……、……。

僕は、白金バッジをポケットにしまうと、替わりにポケ電を取り出して、歩きながら"ある人物"に電話を掛けた。
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