片翼を君にあげる③
年が明けて、暫くしたある日。
俺は、シュウさんに呼び出されて、隠れ家の最高責任者部屋に来ていた。
机を挟んで対面席に座っている俺に、最高責任者が告げる。
「ミヅクが、近いうちに帰還する事が決まりました。
知っての通り、あの子は気まぐれでこの期間を逃すと自らの意志で君の都合に合わせてくれるか分からないでしょう。
……ツバサ。ミヅクとの下剋上、やれますか?」
告げられたのは、白金バッジの一人であるミヅクさんとの下剋上。
やれますかーー?
そう尋ねられた俺の中に浮かんだのは、レノアとライ。二人と、最後に会った日の事だった。
……
…………
クリスマスにアッシュトゥーナ家で起きた事件は、レノアが父親であるヴィンセント様に強く頼み込んでくれたお陰で世間には公けに広まる事はなかった。
使用人や邸に居た人物のほとんどがspellbindにかかって自我を失っていた事から記憶があやふやで……。事件自体は大きな問題もなく、収まった。
けれど、俺達に残った深い傷跡は消えない。
特にレノアは……。
「っ、……駄目、だよっ。
私、ツバサと幸せになんて……なれない!」
ランの葬儀の後。すっかり塞ぎ込んでしまい、現在はボランティア活動は勿論、外出も、家族の者にも顔を滅多に合わせないで……自室に引き篭もる生活を送っているらしい。
俺とも、まともに口を聞いてくれなかった。
ライは、ランが俺に向けている想いに気付いていた様子だった。
ずっと今まで気付けなかった俺に、怒っているような……。でも、哀しみが勝る表情で、言った。
「これで、っ……。姉さんの死を言い訳にして、立ち止まったりしたら……僕は絶対に許さないッ。
白金バッジを諦めたり、レノアとの事を諦めたりしたらっ……絶対に、許さないからな!」
……
それから二人とは……。
ランの葬儀の後以来、会っていない。