片翼を君にあげる③
***

「……ジャナフ?
……。ジャナフ?いないのか?」

最高責任者(マスター)の元を後にした俺は、隠れ家に来た流れでジャナフにも顔を見せておこうと思い、寮の部屋を訪れた。

しかし。部屋に入り、ジャナフを捜して声を掛けても返事がない。どうやら、外出しているようだった。
俺は自宅に帰ろうかとも思ったが、「ふぅっ」と溜め息を吐くと自分のベッドに腰掛け、伸びをするようにしながら後ろに倒れ込んで仰向けに寝転んだ。

気持ちを、切り替えないとーー……。

下剋上を始めて、夢の配達人に戻ってからは、この部屋が俺の家になった。
ここでジャナフと過ごし、寝て、目が覚めたら夢の配達人として訓練したり、下剋上に挑む為の調子を整えてきた。
だから、ここに来たらまた自分の中で何かが動くような気がした。
何かが変わる……。自分の中のやる気スイッチが入るかも、って思ってたんだ。

けど、そんなに簡単なものではなかった。
失ったものが大き過ぎて……。
起きた事実が重過ぎて、…………辛い。

くしゃっ、と左手で前髪を掻き上げるようにすれば、手首に着けていたブレスレットが瞳に映り、再びランの事を思い出して顔を歪める。
この手首に着けている水色の石で装飾されたブレスレットは、ランがクリスマスプレゼントとして用意してくれていた物だった。

それも、俺達一人一人にーー……。

俺達に合った石に想いをのせて、交換用のプレゼントとは別にランは用意してくれていたのだ。
そう、俺、ライ。もちろんレノアにも、だ。

「っ、……なんで……だよっ」

思わず溢れ出す、気持ち。

「なんでっ……ランが死ななきゃ、いけなかったんたッ」

このブレスレット(プレゼント)を見れば、ランが俺達の事をどう想ってくれていたのか?なんて明らかだった。
それぞれ俺達に合った別の色の石。考えて、想って、ランが選んでくれたプレゼントなのだから……、……。
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