片翼を君にあげる③
こちらから連絡するのは良くない気がするし、何て言葉をかけて良いのかも、正直分からない。
そんなツバサを想うボクの心には、ふと、ある気持ちが生まれていた。
けど、ボクはそれを振り払うように首を横に何度か振ると、自分を奮い立たせる。
「……。
もう一回、やってみようかな……」
そして、回収した弓を手にもう一度定位置に戻ると、遠くの的をじっと見つめながら弓矢を構えた。
自分の心の中にあるモヤモヤを消す為にーー……!!
呼吸を整えて、放つ一線。
……しかし。
そんなに上手く行く筈もない。ボクが放った矢は、的に届く事もなく地面に落ちて行った。
やっぱり、ダメだなぁ……。
ヒョロヒョロと、力なく落ちて行った矢が何だかボクには自分自身に見えてならない。
思わず「はぁっ」と溜め息が漏れて、俯きかけたボク。すると、その時……。
「あははははは……ッ!!」
!!……え、っ?
ボクの耳に届いたのは笑い声だった。明るく、無邪気な、子供が笑うような声。
誰ーー……?
弓道場に足を踏み入れた時には誰も居なかったし、先程落ちた弓を回収した際にも人の気配は感じなかった。
けれどボクが視線を向けると、そこに居たのはその無邪気な笑い声を裏切らない小さな子供のような子。
色白で、フワッと肩まで伸びた白髪にピンクや紫のメッシュが入っているその子は、ブカッとした白衣に身を包んで、弓道場を囲む塀に座り、楽しそうに小さな身体を揺らして笑っていた。
わ、っ……すごく、綺麗な子。
その笑顔に不覚にもボクはドキッとした。
パッと見は子供だと思ったけど、無邪気な笑顔の中に美しい色気を感じて……その子が子供ではなく、大人な事が分かる。
思わず目を奪われて見つめていると、ボクの視線に気付いたその子は、塀に座ったまま前屈みで自分の膝に頬杖を着いて、もう一度ニコッと微笑って言った。
「ヘタクソ」
「!ーー……へ?」
「キミ、ヘッタクソだねぇ〜!こんなに愉快な弓、初めて見たよ〜!」
可愛い表情や容姿からは想像出来ない毒舌。その子はそう言うと、再び「あははっ」と声を上げて笑った。