片翼を君にあげる③

その無邪気な様子と毒舌は、ボクの心にグサグサと突き刺さる。
しかし、図星過ぎて……。自分が不甲斐ない事が分かっているから、反論も否定も出来ない。

弓を握り締めながら俯くと、そんなボクの様子を見てか、笑い声はピタリと止まった。そして白髪の子は「よっ!」と声を出しながら塀から降りると、こちらに歩み寄ってきて……。

「……キミの瞳には、殺気がないねぇ」

ボクの間近まで来て立ち止まると、ずいっと下から覗き込むようにして見つめながらそう言った。

っーー……!!

ドキリッ、と。
いや、今度は"ギクリッ"とが入り混じった鼓動がボクに響き渡る。

本当に綺麗な子だ。
大きな瞳にまつ毛も長く、少年にも少女にも見える中性的な顔立ち。間近で見ると、ますますその美しさは増して見える。

けど、今はそれだけじゃなかった。

「何を迷ってるの?」

「!……え、っ」

「そんな怯えたようなザワザワした心じゃ、何も出来ないよ」

「っ……!」

心の奥底を覗き込まれたような鋭い瞳で見つめられて、ボクは呼吸が止まりそうだった。

この子は、只者じゃないーー……。

そう感じると同時に、必死に押さえ込もうとしていた"ある気持ち"がジワジワと滲み出てくる。
その気持ちとは、

あの日……。
あの、クリスマスパーティーの日。
ボクが体調を崩さなければ、あの事件は避けられたんじゃないか?

って、気持ち。

そしたら、ツバサは予定通りにみんなと集まれてて……。事件も防げて、普通に、楽しくクリスマスパーティーが出来たかも知れない。

……そう、思ったんだ。

ツバサは優しいから、そんな事をボクに言ったりはしないだろう。

でも、心の中では思ってるんじゃないかな?
だから、未だに寮に戻って来なければ、ボクには顔も見せてくれないんじゃないかな?

そんな気持ちが心の中に生まれて、想いは日に日に募って、厚く重なっていくばかりだった。
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