片翼を君にあげる③

言葉が出なくて。
瞬きが出来なくて。
唾を飲む事も出来ない雰囲気の中。
ミヅクさんの瞳が、一瞬燃えるような真紅色に輝いた直後。

ーー……シュッ、パァーン!!!

弓道場に響いた、気持ちが良い音。

懐中(かいちゅう)ーー。

ミヅクさんの放った矢は、遠くの(まと)の中心を射抜いていた。

でもボクは、ただただミヅクさんを見つめていた。
射抜かれた(まと)ではなく、ミヅクさんから目を逸らす事が出来なかったんだ。

すると、ポツリッ、と呟くようにミヅクさんが言った。

「ーー……けど。
そんな想いや経験はしない方が、本当は幸せなのかも知れないね?」

そう言った時には、ミヅクさんの瞳はもう白色に戻っていた。
ミヅクさんはニッコリと笑い、ボクに弓を返すと歩きながらノゾミさんに話し掛ける。

「とは言え、何事も経験する事は悪い事じゃない。
ノゾみん、彼にしっかり教えてあげなよ〜?」

ミヅクさんはまたすっかり、子供のような雰囲気だった。
「じゃあねぇ〜♪」と、手をヒラヒラと振りながら、ぴょんぴょん!っと階段を弾むように上がり……弓道場を、去って行った。

……
…………。

【次回更新は6月2日を予定しておりますm(_ _)m】
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