片翼を君にあげる③

「……。なんか、すごい子でしたね」

シンッと静まり返った弓道場。ミヅクさんが去って行った方をボー然と見つめていたボクは、思わずそう口にしていた。

第一印象は可愛い容姿に無邪気な雰囲気。
けど、的確な意見に鋭い洞察力。その上、力なんて全くなさそうな身体付きをしていながら弓を引き、遠くの(まと)の中心を見事に貫いた。

そんな風に先程の光景を思い出していると、ノゾミさんが言った。

ミヅク(あの子)が帰って来た、と言う事は、近いうちに下剋上(げこくじょう)が行われますわね」

「!……え?」

下剋上(げこくじょう)ーー。
その言葉に、胸にドクンッと鼓動が響いた。
それと同時に、まさか、と思うと、それを察したようにノゾミさんが言葉を続ける。

「あの子は、「毒使いのミヅク」。夢の配達人(ここ)で兄と瞬空(シュンクウ)と並ぶ、白金(はくきん)バッジの一人。
……ツバサ君の、次の下剋上の相手です」

「ーー……っ。
あの子が、ツバサの次の下剋上の……相手?」

毒使い。
白金バッジ。
ツバサの次の下剋上の相手。

その現実に驚きながらも、先程間近で身を持って感じたミヅクさんの大物感が自分の勘違いでなかった事が分かった。

「兄に呼ばれた、と言っていましたが、おそらく"そうしなければ、ミヅク(あの子)が帰って来ない"と、兄が判断したからでしょう。
ミヅクは自由奔放で、他人の意見や夢の配達人(ここで)の規則などあってないようなもの……。そんな中で、兄のミライには絶対の忠誠心を捧げていますから」

「っ、ミライさんがミヅクさんを……?」

ノゾミさんの言葉に、きっと疑問に思う事や突っ込むべき所はたくさんあった。
けど、何よりも先にボクの頭に浮かんだのは……。

ミライさんが、ミヅクさんを呼び寄せたーー。

なら、それは……。言い方を変えれば、ミライさんがツバサとミヅクさんの下剋上のタイミングを調整している、と言う事だ。
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