片翼を君にあげる③
ボクには、まだまだ決して辿り着けない領域ーー。
目の前で顔付きも目付きも変わったツバサを見て、そんな風に彼を変えたミヅクさんは本物だと思った。
そして、その背景に在るミライさんの存在も……。
……
…………それは、ノゾミさんからツバサの次の下剋上の話を聞いて、居ても立っても居られなかったボクが初めてミライさんに会った時の事だ。
「やぁ。こんにちは、ジャナフ君」
「!っ、……どう、して?」
初対面の、筈だった。
けどミライさんは、ニッコリと微笑むとボクの名前を呼んだんだ。
自ら勢いで呼び止めたものの、いざ、目の前にしたら何も出来なくなっていたボクに……ミライさんはゆっくりと歩み寄ってくる。
「去年の夏から、夢の配達人の見習いとしてここへ入った。
まだ一人で任務を熟した事はないけど、ツバサに付いて様々な事を経験してる。
……ずいぶんと、ツバサと仲が良いみたいだね?」
白金バッジの夢の配達人の情報力なら、それは当たり前の事なのかも知れない。
でも、まだまだ夢の配達人とは言えないボクの事を、ミライさんは知り尽くしていた。
「本名は、ジャナーフ・ジ・ドルゴア。
ドルゴア王国次期国王サリウス様の弟で、第四王子」
「っ……!」
素性を言い当てられて、思わず心臓がドキリッと跳ねる。
明らかに動揺した様子で目を逸らしてしまうと、ミライさんはクスクスと笑いながら言葉を続けた。
「心配しないで。別に、だからどう、って事じゃない。
君を不審な人物だと疑っている訳でもなければ、ツバサに付き纏うな、って言いたい訳じゃない。
と、言うか、ツバサがその全てを承知で君を傍に置いてるのに……僕がどうこう言うものでも、ないからね」
ーー……え?
その、最後の言葉が……。
ううん、最後の声のトーンが気になって、ボクはもう一度ミライさんに視線を合わせた。
っ、……なん、で?
それは、一瞬だった。
重なった瞳から溢れんばかりの切なさが伝わってきて、目の奥があっという間に熱くなる。