片翼を君にあげる③
「ーーでは。下剋上、始め!!」
全ての準備が整って、ノゾミさんの号令で下剋上が始まった。
「それじゃ、ジャンケンで先行か後行か決めるよ?……ジャ〜ン、ケン、ポイッ!」
そして、まずはミヅクさんの掛け声で順番を決める為のジャンケン。
毒入りの水を避け、5つの盃を交互に飲むこの下剋上。先行も後行も共に良い面も悪い面もある事から、一概にどちらが良いとも言い難いものだろう。
ジャンケンの結果。
俺が先行で、ミヅクさんが後行となった。
「ツバたんからだね。
さぁ、どうぞ。好きな盃を選んで」
先行ならば常に相手よりも選択肢の多い中から盃を選ぶ事が出来るが、まず最初の先陣を切るプレッシャーがハンパない。
"もし、これに毒が入っていたら?"と言う想いは、選択肢が多いとからと言って拭えるものではなく……。確率はあくまで確率、ほんの少しの気休めでしかない。
俺は、5つの盃を順番に見比べる。
しかし、盃に入っているのは無臭な無色透明の水で、いくら目を凝らしても、このまま吟味しても意味のない時間が過ぎていくだけ。
結局は、自分の直感を信じるしかないのだ。
勝負運の強さも、白金バッジの夢の配達人にとって必要不可欠なものーー。
時には培った知識や努力で得た技術が役に立たない事もある。神に愛されし、天の力を味方につける者が頂点に立つ時もあるのだ。
それは、まさに今。一見、そんな無謀な、と思われがちだが……。俺よりも遥かに長く生き、夢の配達人としても長い時を生きているミヅクさんに、俺が勝てるかもしれない唯一の面でもあるのだ。
そして、俺はその強い勝負運で誰よりも長く夢の配達人の白金バッジで在り続けた伝説の夢の配達人の息子。
親の七光りである事は恥じゃない。
誇れ。強い自信に変えろ。
俺なら、大丈夫だーー!!
俺は自分の正面から見て1番左端の盃を手に取ると、そのまま口に運んで中の水を飲み干した。