*結ばれない手* ―夏―
「ところでモモの『天才過ぎる身体能力』について、凪徒が決めた自分の中での『ルール』のことは知っているか?」

「ルール?」

 胸の前で腕を組み、()りをほぐすように肩を上下させた暮は、きょとんと目を丸くした。

「モモの到るべき目標を高みに上げ、そこに達しない演舞を全て注意する。実際モモはすぐにデビュー出来るほどの技量を持っていたが、三ヶ月を有することになったのも、その後も凪徒から説教されまくっているのもそういうことだ」

「……団員達にモモの天才振りを見せつけないために、ですか?」

 暮の予測に団長は「うむ」と一つ首を上下させた。

 しかし先日の皆の前での説教がいつもの調子とは思わないが、あれほど叱りつけられていてもめげないモモは、凄いと言うより凄まじいな、と暮はつい苦笑した。

 今どきの若者は叱られることに慣れていない。

 もしかするとそここそが、モモの天才である所以(ゆえん)なのかもしれない?


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