*結ばれない手* ―夏―

[30]生と死

「え!? とっ、盗聴っっ?」

「「しーっ! 声がでかいっ」」

 事情を聞き出したモモの大声に、二人は自分の口元へ人差し指を寄せた。

 モモも慌てて両手で口を(ふさ)ぎ、背後の入口を心配そうに振り向いてみる。

「とりあえず今いいところなんだ。ちょっと聞いててくれ」

 ──いいところって……。

 驚きの(まなこ)を両端の二人にキョロキョロさせつつ、モモもスピーカーから聞こえる会話に取り急ぎ集中することにした。

『と、とにかくご主人様にお伝えして参りますね!』

 家政婦らしき女性の慌てた足取りが遠くなってゆき、やがて別の落ち着いた足音が近付いてくる。

『……やっと帰ってきたか。ちゃんとスーツを仕立ててくるとは……分かっている証拠だな』

 ──スーツ? だからあいつは道草食って、で、それで『ご立派』か。

 凪徒の声をもう少し低くしたような父親らしき男性の発言から、暮は今までの会話を理解した。

『あんたが望んでるのはこれだろ? てっとり早く着てきてやったんだ。もしまだ杏奈がサーカスの周りをウロチョロしてるんなら、早く撤退するように言いやがれ』

 ──言いやがれって……。

 さすがに内緒で聞いている三人も、父親に対する凪徒の口の悪さに苦笑いをしてしまった。


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