*結ばれない手* ―夏―
『そんな悪魔に魂売ったようなあんたの元には戻れない。だったら俺は自分の場所に帰る』

『無理だよ、凪徒。お前が帰ろうとするなら、あのサーカスは解体させる。私の手に掛かれば赤子の手を(ひね)るようなものだ……分かるだろ?』

『……おやじっ──』

 その後の桜邸からは一切の言葉は聞こえず、ややあってドタドタと歩く音と、ドアの勢い良く閉じられた音が響いて何も聞こえなくなった。

「こりゃあ、強敵だな……」

 背筋を伸ばして、暮が再度ぼやいてみせた。

「サーカスを解体だなんて──」

 秀成も(おび)えたように(つぶや)く。

 そしてモモは──。



 ──どうしよう……先輩が……先輩じゃなくなっちゃう……──。



「モモたーん、ヒデナーいた? あ、みんな~ご飯冷めちゃうヨー」

 三人を見つけたリンの呼びかけに、モモだけはじっと胸に手を当て、応えることが出来なかった──。


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