*結ばれない手* ―夏―

[3]ナギとアン 〈A〉

「えと……どなた、ですか?」

 目の前の二十代半ばといったところの女性は、淡い紫色の涼やかなワンピースに、白いフリルの日傘を差していた。

 モモより短めの薄茶色い髪には緩やかなパーマがかかっていて、その透き通るようなきめ細やかな肌に良く似合っている。

 鮮やかなアイシャドウや真っ赤な口紅が大人びた印象を見せ、モモには自分とはまるで違う世界の人物に思えた。

「ナッギーって桜 凪徒のことでしょ? 彼に用があるの」

 幾ら凪徒のファンが大勢いるとは言え、通常楽屋近くまで押しかけられるのは公演直後だ。

 こんな休演日に現れるということは凪徒の知り合いか?

 モモはその女性の整った(おもて)に釘付けになったまま、彼女の前に立ち上がった。

「ふうん、まぁ……いいんじゃない?」

 ──?

 女性はモモの足先から脳天までを舐めるように見回して、一言(つぶや)きフッと笑った。


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