*結ばれない手* ―夏―
[32]あしながお姉さんと見えない将来
鈴原夫人の助言を得て、いつもの元気を取り戻したモモは月曜四公演を無事に終えた。
遅い夕食を取り、シャワールームを目指す。
その途中めったに鳴らない携帯がメロディを奏でたので、近くのベンチに荷物を置いて画面を覗いたが、市外局番が〇三の知らない番号からだった。
「誰だろ……? あっ、先輩!?」
慌てて応答したが、「もしもし」との呼びかけに返ってきたのは、艶のある女性の声だった──杏奈。
「少しお久し振りになっちゃったわね。元気にしてる? モモちゃん」
「杏奈さん……」
どこから掛けているのか、周りがいやに騒がしい。
「ナギが実家へ戻ったのはもう知っているのよね? 私も東京の自宅へ戻ったの。貴女を連れて帰りたかったけれど、今のところサーカスの一員であることだし……でも、そろそろ答えが決まったのなら、お返事聞きたいと思って」
「──」
モモは何も答えられなかった。
あのスピーカーの向こう側が自分の居場所とは思えなかったし、杏奈の元もきっと違う。
でも自分が行くことで凪徒が解放される可能性がゼロでないのなら──そう思えばこそ──完全に拒否出来ない自分も少なからず存在した。
遅い夕食を取り、シャワールームを目指す。
その途中めったに鳴らない携帯がメロディを奏でたので、近くのベンチに荷物を置いて画面を覗いたが、市外局番が〇三の知らない番号からだった。
「誰だろ……? あっ、先輩!?」
慌てて応答したが、「もしもし」との呼びかけに返ってきたのは、艶のある女性の声だった──杏奈。
「少しお久し振りになっちゃったわね。元気にしてる? モモちゃん」
「杏奈さん……」
どこから掛けているのか、周りがいやに騒がしい。
「ナギが実家へ戻ったのはもう知っているのよね? 私も東京の自宅へ戻ったの。貴女を連れて帰りたかったけれど、今のところサーカスの一員であることだし……でも、そろそろ答えが決まったのなら、お返事聞きたいと思って」
「──」
モモは何も答えられなかった。
あのスピーカーの向こう側が自分の居場所とは思えなかったし、杏奈の元もきっと違う。
でも自分が行くことで凪徒が解放される可能性がゼロでないのなら──そう思えばこそ──完全に拒否出来ない自分も少なからず存在した。