*結ばれない手* ―夏―
 先のことなど考えたこともなかったモモには衝撃的な真実だった。

 確かに鈴原夫人も今なお補欠要因として技術を維持しているが、引退したのは二十六歳だ。

 それからの自分はどうするのだろう?

 夫人のように別の技術を得て、サーカスで引き続き働けるのか?

 いや……珠園団長だってその頃には年金暮らしだ。サーカス自体もなくなってしまうかもしれない──。

「あ……う……」

 モモの口から隠せない戸惑いの声が(こぼ)れた。

「どう? 少しは私の支援も魅力的に思えてきたでしょ? ──ん? あ、ちょっと待って、すぐ行くわ。……ごめんね、モモちゃん。今取引先をお招きしてパーティの最中なの。もう行くわね。じゃ、良いお返事待ってるから」

 杏奈は電話の向こうの誰かに応えた後、一方的にモモに事情を説明し切ってしまった。

 呆然と立ち尽くす、暗闇の中。


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