*結ばれない手* ―夏―
 ──いや……もうこんな自分では、ダメだ。ちゃんと、立たなくちゃ。自分の足で、この二本の脚で。



 モモは(うつむ)いていても、瞳の力を弱めることはなかった。

 あの春の誘拐事件で、今回の凪徒の失踪事件で、どれだけ自分が周りから愛されているのかを気付くことが出来たのだから──先輩、暮さん、鈴原夫人、秀成君、リンちゃん……そしてきっと団長も、他の皆も──困った時・落ち込んだ時、周りのみんなが助けてくれた。励ましてくれた。あたしもそうなりたい。そうありたい。自分が先輩を助けなくちゃ!

 杏奈の申し出はとても有難いことだと思えたが、モモの心には響かなかった。

 けれど今回の電話で(さと)された自分の未来に、何かヒントを得たような手応えを感じたのは確かだった。

 ──自分の進むべき道が決まれば、きっと一歩を踏み出せる筈……あれ? それって杏奈さんが気付かせてくれた……?

 モモは閉じた二つ折り携帯を一度見下ろし、ふと蓋に表示された時刻を確認して、慌ててシャワールームに足を踏み出した──。


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