*結ばれない手* ―夏―
「凪徒もモモも、わしには大事な家族だ。辞表は何回出してくれても構わないが、二人の戻ってくる場所はここだぞ? 分かっているな?」

 つぶらな瞳が三日月形に細められ、ゆったりとした温かな笑みがモモに向けられる。

 少女は瞬間身を縮めるように驚きを示したが、困った顔のまま無言で小さく(うなず)いた。

「団長、入ります。……モモ?」

 そんなやり取りからややあって暮がやって来たが、モモがいることは知らなかったらしい。

 戸惑いながらも同じ表情で見上げるモモの隣の席に着いた。

「明日、モモが桜家に(おもむ)くことになった。悪いが暮、同伴してくれるか?」

「え? あ、構いませんが」

「団長……」

 暮は団長の依頼に驚きを示したが即答し、モモは相変わらず困惑していた。

 桜の家でどんなことが起きたとしても、サーカスのメンバーには何の影響も与えない。

 モモはそう決心していたのだ。


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