*結ばれない手* ―夏―
「では明朝営業車を貸してください。それと秀成も同行させて良いですか? あいつはなかなか役に立つので。モモもいいね?」

「……」

 暮の提案で益々自分の意向とは真逆へ進む話に、モモは受け入れ難いという沈黙を貫いた。

「モモ」

 が、それを察した団長が改めて名を呼ぶ。

「みんなに迷惑を掛けることになると心配しているのは分かる。だがの、迷惑を掛けられてこそ家族というもんだ。どうせだったら思い切り迷惑を掛けてこい。みんなにもそれを受け入れる覚悟はある」

「で、でも! 先輩のお父さんはサーカスに戻ったら解体させるって言ったんです。そんな訳には……」

 その時、ガラリと団長室の引き戸が開かれ、咄嗟(とっさ)に振り向いたモモの大きな瞳には、暮の横顔の向こうに沢山の人だかりが映り込んだ。

「モモちゃん、水臭いわ。「解体出来るものならしてみなさい!」って啖呵(たんか)切っていらっしゃい」

「え? ……──」

 ──夫人……、み……んな……?

 狭い扉のスペースからニコニコした皆の笑顔が(のぞ)いている。


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