*結ばれない手* ―夏―
「あの……では、ご案内します」

 気圧(けお)されてしまうような強い雰囲気を感じたモモは、つい身元確認もあやふやなまま凪徒の寝台車へ足を向けていた。

 急に大人しくなったリンも、その女性と共にモモの後に続く。

「少しお待ちください。呼んで参りますので……えっと、お名前は?」

 モモは車の前で振り返り、その女性に再び質問をした。

 が、彼女が答える前に車のドアがスライドし、

「あ……杏奈!?」

 モモの真上から影が落ちて、見上げた先に凪徒の驚きの表情が映った。

 ──アンナ?

「お久し振りね、ナギ」

 日傘を肩に掛け、両腕を胸の前に組んだ不敵な微笑みの女性は、『杏奈』と呼ばれ答えた。

 モモは慌てて横に移動し、頭をぶつけないよう車から出てきた凪徒の横顔を見つめた。

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