*結ばれない手* ―夏―
「杏奈さん、感謝しています。自分の将来を考えさせてくださったのは杏奈さんです」

「そんなこと……」

 深く一礼をしたモモに、杏奈はそれでも嬉しそうに言葉を投げた。

 そして次に、

「モモ」

 姿勢を戻したモモに声をかけたのは凪徒だった。

「杏奈が何に誘ったのかは知らないが、断りに来たんだったらもう用は済んだな? だったら早く帰れ。ここはお前の来る所じゃない」

「そして先輩のいる場所でもないです」

 ──!?

 杏奈が初めて現れた時と同様のやり取りがモモの口から現れて、凪徒は一瞬言葉すら出ないほど驚いた。

「先輩……帰ってきてください。サーカスへ……自分の居場所へ!」

 モモはソファの手前まで進んで、凪徒に向けて手を差し伸べた。

 広げられた掌の先の真剣な表情に凪徒は身動き出来なくなる。


< 150 / 178 >

この作品をシェア

pagetop