*結ばれない手* ―夏―

[37]啖呵と答え

「……駄目だ。俺は戻らない。もう、決めたことだ」

 凪徒は相変わらずテーブルを見つめながら、横で直立するモモに答えた。

 悲痛な声が凪徒の苦悩を(のぞ)かせている。

「勝手に決めないでください。みんな、先輩を待っているんです!」

「駄目だっ、俺が戻ったら──」

「“サーカスが解体される”──から、ですか?」

「何で知っ……!?」

 モモの答えにやっと向けられた憔悴(しょうすい)した顔は、冷静な少女の姿に再び硬直した。

「団長からお墨付きを頂いてきました。解散させられたら、何度でも作り直すって! だからって訳じゃないですけど、先輩は帰ってきていいんですっ。だから!」

 モモは依然凪徒へ一直線の手に力を込めた。

 もうこれ以上は無理だというほどに張り詰められた五本の指。

 モモは潤んだ瞳から涙が落ちないようにキュッと歯を食いしばり、もう一度唇を開いた。

「妹でも何でもいいです! 何でもいいから……また、あたしの前に立ってください! あたしの高い壁になるって決めたのは、先輩ですよねっ? 途中でやめるなんて、それこそ、男が、すたるんじゃ、ないんですかっ!?」

「モモ……」


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