*結ばれない手* ―夏―

[38]敵と味方 〈Ha♡A〉

 呆然と立ち尽くす二人の影に、笑い出す腰かけたままの二人。

 その一人である杏奈がおもむろに立ち上がり、隼人の隣に(たたず)んだ。

「私が、杏奈と結婚するんだ」

「あん」

 隼人の腕が杏奈の腰に絡みつき、杏奈がわざとらしく色気のある声を上げた。

「ああ? ……ちょっと待て。どういうことだ……?」

 モモを(ふところ)に抱え込んだまま身体を二人に向けた凪徒は、まったく意味が分からないという顔をした。

「お前がやっと『行き先』を決めたようだから、そろそろ種明かしをするとしよう。杏奈と私は以前から、お前の公演を時々見に行っていた。で、気付いたんだ。お前が『結論』を出せずにいることを。随分と臆病になったものだな。だから一芝居打ってみたんだよ。お陰でいい『きっかけ』になっただろう?」

 背もたれに沈めていた上半身を起こし、膝の上で肘を突く。

 その両手に(あご)を乗せ、意味深な上目遣いを投げる隼人。

 凪徒は一瞬たじろいだが、隼人のソファの肘掛けへ腰かけた杏奈に視線を移した。


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