*結ばれない手* ―夏―
「私は、芙由子を裏切ってなどいないさ」

 依然自信を(みなぎ)らせ、微動だにしない隼人が言い放った。

「どういう意味だ!? あんたは昔俺達に『妹が出来るんだ』と、妊娠中の女性に会わせたじゃないか!」

 凪徒はモモの肩に乗せた手に力を込めた。

 刹那モモも凪徒の腕の中で萎縮してしまう。

 ──自分の母親……かもしれない女性──。

「凪徒。お前が今そうやって大事そうに守っているその少女……桃瀬君と言ったかな? 彼女は確かにあの女性の娘だろう。とても面影があるよ。だがね、私の子供ではない」

「「「えええっ!?」」」

 隼人の爆弾発言に途端上がった声は、凪徒、モモ、そして……杏奈、だった。

「は、隼人さん?」

「悪かったね、杏奈。でも『敵を(あざむ)くには味方から』と言うだろう? 凪徒もすっかり信じ込んでしまっていたし、面倒だからそのまま計画を進めてみたんだ」

 そうしてニッコリと笑ってみせた表情は少し若返って、まるで()りし日の拓斗みたいだ、と(ほう)けながらも杏奈は思った。


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