*結ばれない手* ―夏―
「拓斗と凪徒を椿さんに引き合わせたのは、芙由子との話がまとまってまもなくのことだった。あの優しい笑顔、お前も良く覚えているだろう? お前達は幼いながらも理解し誤解してしまったから、余り会話は弾まなかったが、椿さんはとても楽しそうだった。だが赤の他人を巻き込む訳にはいかないと思ったのだろうね、彼女はそれから数日後、忽然(こつぜん)と消えて今に致る──」

 ──お母さん……。あたしの知らないお母さんの笑顔を、先輩が知っているだなんて──。

 モモは隣に座る凪徒の表情を見上げるには、露骨過ぎる気がして諦めた。

 だが(かす)かに凪徒が膝に乗せた拳を、ギュッと握り締めるのが視界の端に入ったことを感じた。


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