*結ばれない手* ―夏―
 しばらく二人の攻防は続いたが、モモの最後の言葉で凪徒は大人しくなった。

 ややあって左手を放し、髪をかき上げ目を(つむ)った。

「では、行きます!」

「お、おお」

 神妙に息を吐き出すモモ。反面凪徒は息を呑んだ。そして──



 ──パチンッ!!



「いっ……いって~~~!!」

 すぐさま額に手をやって大きく叫んだ凪徒に、満足そうなモモの笑顔が向けられた。

「モモっ! 俺だってこんなに痛いデコピン、お前にやったことないぞっ!?」

「何言ってるんですかっ。あたしが受けてきたのは、この何十倍も痛かったんですから」

「嘘つけっ、俺のは絶対もっと優しい!!」

「嘘つきは先輩です~!」

 小さなプレハブで繰り広げられる(はた)から見れば滑稽(こっけい)なやり取りは──本当に『傍から』見られていた。微かに開かれた扉と窓から(のぞ)く団員達。



 ──やっぱり、まだまだ『兄』と『妹』か?



 微笑ましく見守る皆の心に浮かんだのは、そんな二文字であったでしょうか?


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