*結ばれない手* ―夏―
「は、はい……」

 ずっと沈黙の車中だったため、いきなりの声かけにビクッとしてしまったモモを、更に杏奈は笑う。

「可愛いわね~ナギが育てたくなる気持ちも分からなくもないわ」

 ──育てる? あ、ああ……ブランコ乗りとしてってことか……。

 自分なりにその理由を解釈したモモは、膝の上で固く結んだ握り拳に目を落とし、今一度杏奈を見上げた。

「あの……どうして、あたしを……?」

 何故自分を連れ回しているのか、何故自分に凪徒の過去を話そうとしているのか──モモには見当も付かなかった。

「うーん……ごめんね、私も何をどこから貴女に話そうかまだ悩んでいるのよね~質問はしてくれても構わないけれど、それをいつ答えるかは私に決定権をもらえるかしら?」

「はぁ……」

 ──何をどこからって、そんなに話すことがあるのだろうか?

 二の句の継げなくなったモモを放置したまま、杏奈は高速を降りようとウィンカーに手を掛けた。


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