*結ばれない手* ―夏―
「目的地はまもなくだけど……お腹空いてるわよね? 先に食事を済ませましょ」
時刻は既に正午を過ぎている。
思えば大して眠れないまま朝方起き出して、それから口に入れた物は杏奈が買ってくれた烏龍茶だけだ。
通い慣れた道筋なのか、併走する車の間をスイスイとすり抜けて、幾つもの車線変更を容易にこなし大通りを右に折れた。
進んだ先は裏通りらしく、狭い道幅に小さな店が密集している。
二分ほど走った奥の小さなコインパーキングへ器用に駐車をし、杏奈は戸惑うモモを連れ立って、路地をジグザグに抜け人の溢れた大通りへ出た。
「行きつけのカフェがあるから、そこでいいかしら? 野菜たっぷりのパニーニなんて美味しいわよ」
──何か……かっこいい。
振り向いて手際良くまとめた杏奈に頷き、相変わらず言葉すら出せないままその背を追うモモ。
考えてみたらこんなお洒落な街角に繰り出したこともないし、そんな素敵な響きのある店にも行ったことがない……自分の世界はあのサーカステントを中心とした半径三キロ程度なのだと気付かされた。
時刻は既に正午を過ぎている。
思えば大して眠れないまま朝方起き出して、それから口に入れた物は杏奈が買ってくれた烏龍茶だけだ。
通い慣れた道筋なのか、併走する車の間をスイスイとすり抜けて、幾つもの車線変更を容易にこなし大通りを右に折れた。
進んだ先は裏通りらしく、狭い道幅に小さな店が密集している。
二分ほど走った奥の小さなコインパーキングへ器用に駐車をし、杏奈は戸惑うモモを連れ立って、路地をジグザグに抜け人の溢れた大通りへ出た。
「行きつけのカフェがあるから、そこでいいかしら? 野菜たっぷりのパニーニなんて美味しいわよ」
──何か……かっこいい。
振り向いて手際良くまとめた杏奈に頷き、相変わらず言葉すら出せないままその背を追うモモ。
考えてみたらこんなお洒落な街角に繰り出したこともないし、そんな素敵な響きのある店にも行ったことがない……自分の世界はあのサーカステントを中心とした半径三キロ程度なのだと気付かされた。