*結ばれない手* ―夏―
「わっ、美味し……!」

 それから二百メートルほど歩いた先の杏奈行きつけのカフェとやらに到着した。

 座らされた窓越しのテーブルにて訳も分からずお勧めのパニーニを頼み、まもなく供されたそれに一口かぶりついた。

「お口に合って良かったわ」

 珈琲だけを注文しカップを手にしたままの杏奈は、前に見たことのあるフッとした笑みを傾け、長い(まつげ)の瞳を細めた。

「ねぇ……モモちゃんって、ナギのこと、好きよね?」

「……んっ?」

 いきなりの質問に、口に入れたパニーニを喉に詰まらせそうになった。

 それもほぼ肯定した言い回しと雰囲気に圧倒されてしまう。

「せっ先輩は……尊敬もしていますし、ブランコ乗りとしての目標とか……あくまでも、あ……憧れって言いますか……」

 『恋愛対象ではない』──そう断言出来る自分が必要だ。なのに──。

「そんなに隠すことないんじゃない? でも、そうしていたいならその方がいいのかもね。貴女には手の届かない相手になることだし……いえ、元々そうなのかも」

 ──え……?

 謎だらけの台詞(セリフ)に、モモは続けようとした食事の手を止めた。


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