*結ばれない手* ―夏―
「モモちゃん、降りてくれる? 用はすぐ済むわ」
「はっ、はい」
モモは慌てて車を降り、入口へ向かった杏奈の後を追った。
「いらっしゃいませ」と言われたからには杏奈の場所ではないのだろうが、この車といい、『お嬢様』との呼びかけといい、杏奈が裕福な家庭の出であることは察せられる。
そうして向かった透明な自動ドアに、見慣れた一文字が目に入った。
モモは両側に開いてゆく扉の手前で、その漢字を追うように顔を横へ向けながら足を止めた。
──さ、『桜』コーポレーションって書いてある……!?
「気付いたのね? そう……ここがナギの本来いるべき場所。彼の父親の会社よ」
「……」
扉の向こうで振り返った杏奈が、少し意地悪そうな顔で笑っていた。
呼吸すら忘れてしまいそうな数秒間に、モモの脳内には様々なことがグルグルと渦巻いて消えていった。
──知ってる……あたしですら知っている会社だ……だって歴史の授業にも出てきたんだから……旧『桜財閥』……日本四大財閥の一つ……──。
「はっ、はい」
モモは慌てて車を降り、入口へ向かった杏奈の後を追った。
「いらっしゃいませ」と言われたからには杏奈の場所ではないのだろうが、この車といい、『お嬢様』との呼びかけといい、杏奈が裕福な家庭の出であることは察せられる。
そうして向かった透明な自動ドアに、見慣れた一文字が目に入った。
モモは両側に開いてゆく扉の手前で、その漢字を追うように顔を横へ向けながら足を止めた。
──さ、『桜』コーポレーションって書いてある……!?
「気付いたのね? そう……ここがナギの本来いるべき場所。彼の父親の会社よ」
「……」
扉の向こうで振り返った杏奈が、少し意地悪そうな顔で笑っていた。
呼吸すら忘れてしまいそうな数秒間に、モモの脳内には様々なことがグルグルと渦巻いて消えていった。
──知ってる……あたしですら知っている会社だ……だって歴史の授業にも出てきたんだから……旧『桜財閥』……日本四大財閥の一つ……──。