*結ばれない手* ―夏―
[7]オレンジジュースと彼女の出生
「聞く余地まだありそう? さっきは筋肉バカって言ったけれど……意外にそうでもないのよ、ナギって」
“ナギ”という二文字が遠くへ行ったモモを引き戻した。
特に凪徒をそんな風に思ったことなどないが、そう言った杏奈の表情が少し切なそうに揺らいでいることに気が付いた。
「おじ様──彼の父親で、この桜グループの社長ね。今度新事業を立ち上げるのよ。それをナギに任せたいと思っているの。ま、サーカスに五年もいたのだから、一からの勉強は必要だと思うけれど、あれでも高校時代に経営学を叩き込まれているのよ」
──五年……。
自分よりも何年先に珠園サーカスへ入団したのかも知らなかったモモは驚きを隠せなかった。
それまで凪徒はこのとてつもない大企業の、もしかすると跡継ぎ候補だったのかもしれない。
「あの……それで……その……先輩がここに戻ってくるように、あたしに説得してと言っている訳では……」
何とか言葉を紡いだが、それくらいしか自分に話す必要性を見出せなかった。
“ナギ”という二文字が遠くへ行ったモモを引き戻した。
特に凪徒をそんな風に思ったことなどないが、そう言った杏奈の表情が少し切なそうに揺らいでいることに気が付いた。
「おじ様──彼の父親で、この桜グループの社長ね。今度新事業を立ち上げるのよ。それをナギに任せたいと思っているの。ま、サーカスに五年もいたのだから、一からの勉強は必要だと思うけれど、あれでも高校時代に経営学を叩き込まれているのよ」
──五年……。
自分よりも何年先に珠園サーカスへ入団したのかも知らなかったモモは驚きを隠せなかった。
それまで凪徒はこのとてつもない大企業の、もしかすると跡継ぎ候補だったのかもしれない。
「あの……それで……その……先輩がここに戻ってくるように、あたしに説得してと言っている訳では……」
何とか言葉を紡いだが、それくらいしか自分に話す必要性を見出せなかった。