*結ばれない手* ―夏―

[10]悔恨と冷やかし

 モモはもうコンビニへ着替えに行く気も失せていた。

 ただ布団に潜り込んで眠ってしまいたい気分だ。

 全てを忘れて明日いつも通りの笑顔で空中ブランコに乗りたい。

 凪徒と一緒に。ひたすらそうしたいだけ──。

「あ、モモたん! あれからドコ行ってたの~?」

 途中今朝と同じ調子のリンに声をかけられたが、モモは立ち止まることもなく足早に通り過ぎた。

 申し訳なさそうな淋しい笑顔と小さく手を振って……それが今出来る彼女の精一杯だった。

 幸い車内には誰もいなかった。

 時間的には夕食の頃であるし、食堂プレハブか外食にでも出掛けているのだろう。

 皆が戻る前に眠りについてしまえば、もう誰にも問いかけられることもない。

 いそいそと布団の間に身体を挟み込んで、なれるだけ小さく身を丸め抱え込む。

 モモは深く傷ついていた。

 自分が凪徒を怒らせてしまったことと同時に、『凪徒を傷つけてしまった』ことに。

 自分は浅はかだったと後悔した。

 単純な好奇心に身を操られ、あんなに遠くまで凪徒の過去を掘り返しに行くような行動を取ってしまった。

 自分の目の前の欲を満たすことだけにしか気持ちが行かなかったのだ。

 それに上手いこと付け込んできた杏奈も杏奈なのかもしれないが、そんな誘惑に身を(ゆだ)ねてしまった自分が一番いけなかった。

 モモは凪徒の()えることのない傷痍(しょうい)を、(えぐ)るような残酷な行為をした。

 凪徒を思いやれず実行に移してしまった自分──それに心底傷ついていた。


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