*結ばれない手* ―夏―
[13]迷いと珈琲
団長用のプレハブまでの道のりは徒歩二分といったところであるのに、凪徒はどれくらい時間を掛けたのだろう。
叱責されるのは目に見えているし、停職か解雇されてもおかしくないほどの騒ぎを起こしてしまった。
──モモをあんな目に遭わせるなんて……精神的にも肉体的にも傷つけて……もうあいつに『先輩』なんて呼ばれる身分ではない──。
重い足取りはそれでも無意識に団長室に向いていた。
気付けばガラス戸が目の前に立ちはだかり、カーテンの隙間から零れる光が足元を照らしていた。
凪徒は仕方なく扉を軽く叩いて、微かに聞こえた返事の後、引き戸を開き入室した。
「すみません……遅くなりました」
「ま、座りなさいの」
現れたのはいつも通りのずんぐり小太りで温和な笑顔の団長だった。
いつものように目の前の椅子に促され、無言で頷き腰を掛ける。
けれど普段は安そうな味気のないお茶が出てくるところを、珍しく洒落たカップで珈琲が差し出された。
「たまにはいいだろ?」
驚いて見下ろしていた凪徒に不器用なウィンクが投げられ、途端に緊張が走る。
けれど重苦しいここまでの道程に、それなりの覚悟は出来ていた。
叱責されるのは目に見えているし、停職か解雇されてもおかしくないほどの騒ぎを起こしてしまった。
──モモをあんな目に遭わせるなんて……精神的にも肉体的にも傷つけて……もうあいつに『先輩』なんて呼ばれる身分ではない──。
重い足取りはそれでも無意識に団長室に向いていた。
気付けばガラス戸が目の前に立ちはだかり、カーテンの隙間から零れる光が足元を照らしていた。
凪徒は仕方なく扉を軽く叩いて、微かに聞こえた返事の後、引き戸を開き入室した。
「すみません……遅くなりました」
「ま、座りなさいの」
現れたのはいつも通りのずんぐり小太りで温和な笑顔の団長だった。
いつものように目の前の椅子に促され、無言で頷き腰を掛ける。
けれど普段は安そうな味気のないお茶が出てくるところを、珍しく洒落たカップで珈琲が差し出された。
「たまにはいいだろ?」
驚いて見下ろしていた凪徒に不器用なウィンクが投げられ、途端に緊張が走る。
けれど重苦しいここまでの道程に、それなりの覚悟は出来ていた。