*結ばれない手* ―夏―
「……モモ」

 ぎこちない笑みを浮かべて目的地に歩を進めようとした時、遠慮がちに声をかけられた。

 すぐに振り向いたが凪徒はいつの間にか寸前に(たたず)んでいて、モモは一瞬ビクついてしまった。

「あのさ……」

「は、い」

 お互い言葉も態度もいつになく堅苦しく、周りの空気も重苦しく感じられる。

「色々……悪かったな。こっちのトラブルに巻き込んじまって……」

「い、いえ」

 モモは凪徒の顔を見られなかった。

 こうなったのも元はと言えば、自分が杏奈について行ったことから始まってしまったのかもしれない、そう思えて仕方なかったからだ。

「……お前の方がよっぽど大人だったなー」

 ──え?

 その声は空に向かって放たれていて、モモは足元に向けていた視線を上げようとしたが、

「じゃあな」

 更にそう一言、凪徒はモモの頭に手を置いてクシャクシャっとかき混ぜた──時々現れる凪徒の癖。

 ──先輩……?

 その手が離れてモモが見上げた時には、もう凪徒は出口へ向かって歩き出していた。


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