*結ばれない手* ―夏―
 闇に(まぎ)れていく背中をしばし見送ったが、その姿が見えなくなるにつれ、自分の鼓動が速くなっていることに気付いた。

 胸元を拳で押さえて目を(つむ)る。

 ──何だろう、これ。苦しい……。何だか……もう二度と先輩に会えない気がする──。

 ハッと目を見開いた。

 あの花火の下で凪徒が言った言葉を思い出す。

 そう……『俺はもう動くことに決めたんだ』──それって、動くって……サーカス(ここ)を辞めるってこと……?

「せ、先輩っ!」

 初めて感じた物凄い不安が心の奥底を押し潰し、モモは慌てて走り出した。

 前を向けば必ず立ちはだかっていた高い壁──目標。それが今この一瞬で消えるなんて──。

「先輩っっ!!」

 敷地の出口まで走り抜けたが、凪徒はもういなかった。

 ──行くとしたら駅だろうか。それとも高速バス乗り場? レンタカーかもしれない?


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