*結ばれない手* ―夏―
「モモちゃん?」

 右へ左へと首を振りながら、どちらに足を向けようか迷っていると、見覚えのある赤い車体が行き先を(ふさ)ぐように停まった。

 ウィンドウが降りて、あの目鼻立ちの良い横顔が(のぞ)く──杏奈。

「あ、杏奈さん……」

 これで凪徒が杏奈と一緒ではないことは証明されたが、再びの遭遇にモモは戸惑ってしまった。

 凪徒が行ってしまったことを杏奈には話したくない、が、きっと杏奈は凪徒の目的の場所を知っている。

「……ナギが、動いたのね?」

「……」

 焦燥が浮かぶモモの表情を察して杏奈は答えを導いたが、モモは返事をしかねた。

 また関われば凪徒に迷惑を掛けるかもしれない。でも杏奈こそがこの失踪の鍵を握っている。

 杏奈も少女が口を閉ざした理由に気付き、扉を開いて車を降りた。

「ちょっと意地悪し過ぎちゃったみたいね……少しでいいわ。落ち着いて話しましょ」

 出口の傍に置かれたベンチへモモを促し、隣の自販機からアイスティを二缶買った。

 栓を開けて眼前に差し出すが、受け取る気配がないので優しくその手に握らせた。


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