*結ばれない手* ―夏―
 杏奈は光が注ぎ込む窓際の椅子に腰かけて、内線電話らしき通話を始めた。

 食事の準備を依頼するような言葉を向こう側の相手に伝える。

「ここ、先日の花火大会で話した別荘なの。だから遠くまで連れてきた訳ではないから心配しないで」

 電話を終えた杏奈はモモを安心させようとそう告げたが、距離などよりも今の自分の状況の方が問題だ──これって、もしかして……サーカス内では先輩と共に消えたことになってない……!?

「まぁ、まずは顔を洗ってらっしゃい。あ、昨日お風呂にも入れなかったわね。シャワーも浴びる? 朝食を終えたら全て話すわ。だ・か・ら、それまでは大人しくお姉さんに従ってね?」

 ──それってほぼ『脅迫』と言うのではないでしょうか……?

 杏奈のにこやかな笑顔から、明らかに自由の利かない自分の現状に恐れをなし、モモは思わず苦々しい笑いを零した──。



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