*結ばれない手* ―夏―

[21]抑圧と解放

「さてと……どこから話しましょうかね」

 杏奈はカーテン越しの淡い陽差しを背景にして、冷たい緑茶で唇を潤した。

「ナギには二つ年上の兄がいたの。名前は桜 拓斗(たくと)。私は二人の幼馴染(おさななじみ)で、拓斗の同級生……そして彼の婚約者だった」

「えっ!?」

 モモは思わず声を上げた。

 カランとグラスの中の氷が涼しい音を立てる。杏奈はそれをテーブルに戻し、モモに向けた眼差しは切なそうに潤んでいた。

「タクの話をする前に自己紹介が必要ね。私の名前は三ツ矢(みつや) 杏奈。きっと気付いたと思うけれど、桜と並ぶ三ツ矢家の一人娘よ」

 ──旧三ツ矢財閥──桜家と同じ日本四大財閥の一つだ……。

 モモは「理解した」と言うように、気管に入った酸素を一気に呑み込んだ。


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