*結ばれない手* ―夏―

[23]モモの母とナギの父

「あたしが……先輩の、いもうと……?」

 その頃。

 モモも乾いた唇から出てきた言葉を、自分自身信じられないというように疑問符で終わらせていた。

「そう……でもまだ確証はないけれど。それにもしそうだとしても、母親は別よ」

 顔の前で指を絡ませ、その上から覗くように向けられた杏奈の(まなこ)は鋭かった。

「ナギ自身から聞いた訳ではないけれど、その妹を探すためにサーカスへ入ったのだと思うわ。全国を回る巡業サーカス。だからこそナギは本名のままショーに出続けた。もしその妹が彼のことを聞かされていたなら……話は早いでしょ?」

 ──確かに……でも、どうしてそれがあたしなの……?

 モモは杏奈の問うように(かし)げられた目線へ微かに(うなず)き、続きを待った。

「ナギが六歳の冬だったわ。おじ様がタクとナギを連れて出掛けた先に、お腹の大きな女性が待っていて、おじ様は二人に言ったのだそうよ。「次の春、お前達に妹が出来るんだよ」って。でも幾ら経っても、その女性も赤ん坊も二人の前には現れなかった……ナギは子供心に母親を裏切った父親を恨んだみたいだけど、腹違いでも妹には会いたかったみたいね。兄と母を亡くして、父と縁を切ったナギは、唯一の肉親である妹を見つけたかったのよ。だから──」


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