わたしのエース
「エースお兄ちゃん!」

客が途切れてきたところでホッと一息ついて、ぼうっとそんな考え事をしていたら元気な声が飛んできた。毎年夏にこの旅館に来ている家族の小さな女の子だ。今年で四歳になるその子は英輔をエースと呼ぶほどよくなついていた。

「また来年来るからね」

来年はもうおらん、と答えようとして言葉を飲み込む。今そんなことを言ったらきっとこの子はガッカリするだろう。来年ここに来て俺がいなくても、もう忘れてるかもしれないから無駄に悲しませる必要はない。
< 4 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop