素敵な天使のいる夜にー4th storyー
成長
ーside 大翔ー


沙奈が高熱を出して寝込んでいる時にある人から連絡があった。



それはお昼休憩中で、大学の頃からの恩師であり沙奈の担任をしている川崎教授からだった。



「神代君。久しぶりだね。」


「川崎教授。お久しぶりです。」


「七瀬沙奈さんの緊急連絡先が、七瀬君だったから七瀬君にはもう話をしておいたんだ。

それから、今一緒に住んでいるのが君だって聞いて本当に驚いたよ。七瀬君からも君に話をしておいてほしいと言われてね。

それで、なるべく早めがいいんだけど、空いている時間はありそうかな?」


最初の挨拶の声の調子から一変して、その緊張感のある声に背筋を正された。


きっと、単位取得のことだろうか…



まさか…休学の話じゃないよな?

 
沙奈が高熱を出してから、頭の片隅に『休学』も考えないといけないかもしれないと感じていた。


今の沙奈の身体を考えると、本当はそれが1番だと思うから。


ただの主治医と患者という関係だけだったら俺は迷いもなくそうさせていると思うから。


川崎教授から見て沙奈は数多くいる生徒の中の1人。


だからこそ、もしかしたらそういう可能性だって考えなければいけないと覚悟はしておかないといけないかもしれない。



「…分かりました。今すぐでも大丈夫です。」



不安な気持ちが隠せないまま、俺は川崎教授から指定された場所へと向かった。


「…ごめんね、急に呼び出したりして。」


「いえ。それで沙奈は…」


「まず、これを見てほしいんだ…。まあ、君も知ってるとは思うんだけど…」


そう言って見せられたのは沙奈の出席簿だった。


その出席簿からは、沙奈が大学に入ってから一度も休まず早退もせず出席した証だった。



「七瀬さん、喘息と心臓の病気、この若さでペースメーカーも入っているのに、いきなり慣れない環境で分からない講義を受けて本当にここまでたくさん努力を重ねて来たんだと思う。」



「それだけ、沙奈の気持ちは本気なんです。


沙奈と出会ったのは、高校1年生の時でした。


初めて彼女の診察をした時、彼女の表情は希薄で誰かに頼ったり甘えたりすることができず、何でも一人で抱え込むような子でした。


ですが、今は少しずつ周りを頼りながら彼女なりのペースで前へ進もうとしてくれています。


高校在籍中も入退院を繰り返していたので補修を受けながら単位の取得を頑張って来ました。


大学受験のときもそうでした…


あれだけの遅れがあったのにも関わらず、沙奈は追い上げて来たんです。


相当の覚悟と決意がないと、大学受験に間に合わなかったと思います。


川崎教授。お願いです。


沙奈を…。沙奈のその努力を無駄にはさせたくないんです。」

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