素敵な天使のいる夜にー4th storyー
ーside 沙奈ー


退院してから一週間が経った頃、本命である精神科病棟の実習が始まった。



退院を認められたのは、大翔先生が精神科実習に間に合わせるための一時的な退院だった。


体調はあまり回復していなくて、万全な状態じゃない。


「沙奈…。体調が悪くなったら必ず川崎教授に伝えて休む事。


喘鳴が出てるから発作が出たら必ず連絡して。


顔色もあまりよくないから。」



「分かった。」


「沙奈、ちょっといいか。」


「えっ。」


大翔先生にそう言われると、私は大翔先生に優しく抱き寄せられていた。


不意の出来事に、心臓がうるさい程に音を立てていた。


「沙奈。頼むから無茶はしないでほしい。本当なら、俺が傍にいて、沙奈の実習を支えたいけどそれは無理そうだからな。少しでも体調や気持ちに異変を感じたらすぐに俺に連絡してほしい。

実習中は、川崎教授がそばにいて指導をしてくれるから大丈夫とは思うけど、それでも心配だから。」



「大翔先生…。」


「沙奈はいつも頑張りすぎちゃうところがあるから。

沙奈と出会った時から怖かったんだ。

沙奈がいつか壊れてしまうんじゃないかって。

俺に見せてくれる可愛い笑顔が、いつか消えちゃうんじゃないかって。

そう考えたら、たまらなく不安になることがあるんだ。」


「ごめ…」


私が謝りかけると、大翔先生は優しく私の唇を塞いだ。


初めて聞く大翔先生の不安。


その寂しげな声。


自然に涙が溢れ出ると、大翔先生は親指で頬を伝って流れ落ちる雫を拭ってくれた。


「沙奈。沙奈が謝ることじゃないんだ。」


私の呼吸が落ち着いた事を確認してから、一呼吸置いた大翔先生は、自分の気持ちをゆっくりと言葉にして紡ぎ始める。


「沙奈が、俺達を信じて自分の気持ちや体調のことを話してくれるようになった。これは本当に嬉しいことなんだ。

体調のこともいきなり体調が悪くなることだってある。これは自分でも中々気づけない時だってあると思うから。

病気との付き合いが長ければ長いほど、体調が悪い状態に慣れてしまうことだってある。」


「……っ。」


「…沙奈が倒れてからいつも思うのは、どうしてこんなことになるまで沙奈の状態に気づかなかったんだろうって思うんだ。

だからさ、こんな臆病者な俺のために、少しでも異変を感じたらすぐ話してほしい。

沙奈。前にも言ったけど沙奈の抱えている苦しみを一緒に背負っていきたいんだ。」


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