恋、煩う。

彼の匂いで満たされた部屋はあまりにも安心感で溢れていて、彼に連絡を入れることもせず寝落ちてしまった。
まだ驚いた顔をしながらも、脱いだカーディガンを肩に掛けてくれる松崎くんを、眉を下げつつ見上げた。

「いきなり来てごめんね、連絡もせずに」
「ううん、初めて合鍵使ってくれましたね」

嬉しいです。そう微笑んだ松崎くんは、私を抱きしめると優しく唇を重ねてきた。
触れるだけの温かいキスが、今は何よりも嬉しくて、滲みそうになる涙を堪える。こんなところで泣いてしまったりしたら、彼を心配させてしまうだろうから。

「……何かありました?」

数秒にも満たない口づけが終わり、ゆっくりと睫毛を持ち上げた松崎くんが、鼻先が触れ合う距離でじっとこちらを窺う。

「ううん。急に会いたくなっちゃって」

下手な誤魔化し方だったかもしれない。
だけど、ぎゅっと自分から抱き着くように擦り寄れば、触れ合う体温がじわりと数度上がった気がして、顔を上げると松崎くんは片手で顔を覆っていた。切りそろえられた髪から除く耳殻が、朱色に染まっている。

「可愛すぎません……?」

やがて呟くように言われた言葉に、こちらの頬も熱くなる。
年甲斐もなく、甘ったれた声を出してしまっていたかもしれない。
二人して顔を赤くさせながら、抱き合う体は離さず。
きっと私の様子が可笑しいことには気づいていただろうけど、深くは聞いてこず、ただただ綿で包み込むように甘やかしてくれる彼の存在が、今はひたすらに快かった。







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