恋、煩う。
明るい画面から顔を上げると、上向きの睫毛に縁どられた黒目の大きな瞳がじっとこちらを見つめていた。
「なあに?」
「……いえ、松崎さんとすごく仲いいですよね」
予想していなかった台詞に、油断していた心臓が大きく跳ねる。
多分、表情には出ていない。僅かな笑みを湛えながら、そう? と誤魔化した。
「さっきもそうですけど、何か通じ合ってるーっていうか。松崎さん、課長にはひと際優しい気がするし」
「松崎くんは、入社した頃からずっと一緒だから。それにほら、上司だから気を遣ってるだけかも」
言い訳はすらすらと口から出てくる。
可愛らしく唇を尖らせて、拗ねたような表情を浮かべる米山さんに、嫌な予感がした。
米山さんは暫く疑うような眼差しを向けて来たけれど、暫くすると納得はしてくれたのか鋭かった視線が僅かに柔らかくなる。
「まあ、課長は旦那さん居ますもんね」
「う、ん……」
そこを突かれると、まるでナイフを突きたてられたように心臓がひやりとした。
言葉に詰まってしまったことにはどうやら気付かれなかったようで、はあ、と艶っぽい吐息を吐き出した米山さんがデスクに伏せる。
何かを憂うように潤み揺らめく視線は、ただ一点を──松崎くんの席を、見つめていた。
「……最近、いいなあって思ってるんですよね」
「え……」
「松崎さん。他の女の子からも人気だから、倍率高いですけど」
付き合ったらすごく大事にしてくれそうじゃないですか? 照れたようにはにかみ、恋する女の子の顔をした彼女になんと応えれば良いのか分からなくて、頭が真っ白になる。
別に、なに一つおかしなことは無い。
彼がモテるのなんか今に始まったことでは無いし、街中で一人立っていれば逆ナンまでされるような人だ。
だけど、こんな身近で、こんなにも真っすぐで純粋な恋心を見せられるとは思っていなくて、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃に襲われる。